2013/03/25

ちゃんと使い分けてる?舞台芸術のクレジットにおける「制作」と「製作」の違い。

基本的な制作知識を改めて文字にしてみようシリーズ★

舞台公演のチラシやウェブサイトには必ずクレジット欄がありますが、そこに記載されている「制作」と「製作」の違いって何か、みなさん理解していますか?
「衣装」と「衣裳」みたいにどちらを使ってもOKなんてことは全然なくって、「制作」と「製作」には大きな違いがあるんです!
ちなみにインターネットで「製作と制作の違い」を検索してみると、実はたくさんの答えが見つかります。が!しかし!業界によってこの使い分けって微妙に違うんです。
他の業界での使い分けを舞台芸術に応用しようとすると、実は間違っていたというトラップがあるんですよね。

改めてここで舞台芸術の「製作」と「制作」の違いについてまとめてみます。

もし今までこの違いに悩んだ制作者がいたとすれば、きっと彼らは最初に辞書を引いてみたことでしょう。デジタル大辞泉によれば

せい‐さく 【製作】
[名](スル)
1 道具や機械などを使って品物を作ること。「家具を―する」
2 映画・演劇・テレビ番組などを作ること。プロデュース。制作。「記録映画を―する」
3 詩文・美術作品などを作ること。制作。「物象観が明瞭に筆端に迸しって居らねば、画(え)を―したとは云わぬ」〈漱石・草枕〉

せい‐さく 【制作】
[名](スル)
芸術作品などを作ること。「肖像画を―する」「番組の―スタッフ」

と出てきます。分かったような…分からないような…でも「製作」の説明の2のところに「制作」ってあるし、結局製作と制作って同じなの???ってパニックですよね…。
今回に関しては辞書は役に立たないので、今見たものは忘れてください(笑)

「製作」とは、その作品を作る母体となり、資金の調達を行ったり、クリエーションの責任を負っているところです。つまりはその作品をプロデュースしているのがどこか、を明らかにするためのものです。
あるカンパニーが自分たちで劇場を借り、新作公演をしたとします。
その作品のクレジット欄は「製作」にカンパニー名が入ることになります。
劇場が、あるアーティストに新作を依頼し、費用やクリエーションの責任をその劇場が負っている場合には「製作」には劇場名が入ります。
「製作」クレジットに個人名が入ることはほぼ無く、カンパニー名、劇場名、フェスティバル名などが入ることがほとんどです。
(たとえば一人芝居など大きくない作品を、全部その人自身で資金も調達し、クリエーションした場合は個人名が入ることにはなります)

一方「制作」は、みなさんもご存じの通り、公演を成立させるための予算管理やチケッティング、広報、スタッフとのやりとり等を行うポジションのことです。ここには担当者の個人名が入ることもあれば、制作会社の名前が入ることもあります。

ある作品が世界各地でツアーしたとすると、どの会場でも「製作」には全く同じクレジットが表記されますが、「制作」に関しては、東京公演は〇〇、ソウル公演は〇〇、フランス公演は〇〇と、公演会場によって変わる場合も多いでしょう。
また再演の場合も同じで、何度再演しようと「製作」は同じクレジットが入りますが、「制作」はその時の担当者なので変わる場合もありますよね。

「製作」クレジットは非常に重要です。
カンパニーの自主公演の場合、カンパニーが「製作」であることは自明なのでわざわざチラシ等にクレジットしていない場合も多いですが、私は絶対にどんな小さな公演でも記載していくべきだと思っています。
なぜなら「製作」クレジットは、その作品の責任を負うと同時に、権利を主張する意味もあるからです。

たとえば、ある海外フェスティバルのディレクターが日本で観た作品が素晴らしく、自分の国でも上演してほしいなぁと考えたとします。このディレクターが交渉する相手は「製作」クレジットされている相手になり、また実際に海外公演が実現した場合、上演料が支払われるのもこの「製作」相手になります。(もちろんイレギュラーも存在するとは思いますが。)

製作クレジットが明記されていないのは、その作品の責任と権利が曖昧なまま放置されているということで、個人的にはとっても気持ちが悪いです。
何はなくともとっても大事なクレジット「製作」をちゃんと記載する習慣をぜひ今後つけていきましょう!
(製作クレジットが抜けているのは、特に日本の公演に多いと思います。海外では絶対にクレジットされているものなので…)

あと、「共同製作」っていうものもあるのですが、これに関してはまた書きたいことがいろいろあるのでまたの機会に。

<制作知識シリーズ>