2013/04/01

北朝鮮と韓国をテレパシーでつなぐ!? キム・ファン『x:I liked B better. y:I am 29 too. 』

3月22日に開幕したフェスティバル・ボムは、チェルフィッチュ、ロメオ・カステルッチ、ダニエル・コックなどの海外勢の作品から始まり、先週末からは韓国人アーティストの作品が次々と幕を開けています。

その中でも、私が注目しているアーティストのひとり、キム・ファンの新作を今日見てきたのでさっそくレポートしたいなと思います★
この新作のことは3月の初めに「キム・ファン『皆のためのピザ』に続く新作を今春発表!」で書きましたので、キム・ファンとは誰ぞ?という方はぜひ先にこちらを読んで頂ければと思います。

Photo: (C) the artist

さて、今回の新作 『x:I liked B better. y:I am 29 too. 』は、キム・ファンの他に2人のアーティストが共同で演出をしています。それがSara ManenteとMarcos Simoes。彼らは普段から「テレパシー」を題材に作品を創作しているアーティストで、彼らが考案したテレパシーを伝え合うための独特のメソッドがあるらしいです。
今回の作品も前作『皆のためのピザ』に引き続き、民間人同士の接触が一切禁じられている北朝鮮と韓国におけるコミュニケーションを題材にしているのですが、今回の作品で用いる手段こそが、まさにこれ、「テレパシー」!!

とある2か所の場所(1か所は韓国の公演会場。もう1か所はどこなのか場所は明示されません。当初計画された地点より20キロほど北に計画が変更になったということだけが明かされます。)に設置された2台のライブカメラを用いて公演は展開されます。それぞれのカメラは「北」と「南」という呼び方をされていました。

ここで、なぜ場所を明示しないか、についてちょっと補足を。本当にもう1台が北朝鮮に設置されているとすれば、北朝鮮の民間人と公の場所で接触を図っているということで、これは韓国国内の法律に違反する行為になります。また、みなさんもご存じのとおり、今年に入って北朝鮮は朝鮮戦争の休戦協定を一方的に破棄すると宣言し、2国間の関係も以前より緊張したものになっています。「当初計画された地点より20キロほど北に計画が変更になった」というのはもしかしてそれと関係があるのかもしれません。「北」のカメラが実際にどこに設置されているのかは、スタッフの中でもごく限られた人物しか知らないそうです。

「南」カメラ(=公演会場)と「北」カメラの前には、それぞれ2名の俳優(全員20代中盤~30代前半くらい)が登場します。「北」カメラの前に出てきた2人の女優は、見た目はそれほど韓国の女性と変わらないのですが、話すと北朝鮮独特のアクセントがありました。ちなみにソウル標準語と北朝鮮の言葉は同じ朝鮮語でも、東京の言葉と博多弁くらいはっきり違いがあります。
ちなみに、出演者の名前も「南」側の2人しか明かされておらず、公演前のアナウンスでも「出演者の安全のため、絶対に公演中の録音や撮影を行わないでください」というアナウンスが流れます。北朝鮮側からみても、韓国人と接触することは法に触れる危険な行為なので、彼女たちが何者なのかというのは徹底的に隠されています。

さて、この作品は北と南をテレパシーで繋ぐ作品、と冒頭で説明しましたがテレパシーのメソッドを持つSara ManenteとMarcos Simoesは南側の俳優2名と、北側の2名にそれぞれテレパシーのワークショップを行ったそうです。北の2人に関しては、中国と北朝鮮の国境にある町でワークショップを行い、北の2人はどういう方法かでその場所にやってきたそうです。(闇ルートがあるらしい)

さて、具体的に作品は4部構成になっていました。

1部:お互いの姿は見えないが、音が聞こえる。テレパシーでお互いに相手がやっていることを真似する。
北のカメラにはどこかのアパートの1室が映っており、床には木の棒、「B」と書かれたレジャーマット、回転いすの3つが置かれています。公演会場にも同じものが置かれています。
北と南の俳優(1名づつ)は、お互いの姿は見えず、音だけが聞こえる状態で相手のやっていることを感じてそれを真似します。
たとえば、北の俳優がレジャーマットで木の棒を巻く動作をすれば、南の俳優はレジャーマットの音を聞いてレジャーマットをまき始める、など。

2部:お互いの姿だけが見えて、声は聞こえない。相手が何を言っているのかテレパシーで感じ取って会話する。
北側の音声を会場に流してしまうと南側の俳優に聞こえてしまうので、観客は全員インカムをつけ、北側の音声はそれを経由し聞くことができます。会話がところどころ成立すると客席からは「おおー」と声が出たりしますが、70%くらいはかみ合いません。
それが今回のタイトルに由来になっています。たとえばかみ合ったところだと
南「ねぇ、韓国の女の子はダイエットするのにスポーツジムやヨガに行くんだけど、北朝鮮は?」
北「えっ、あんた私にやせろって言いたいの」
というようなやり取りがあったり、全然合わないところは
南「北朝鮮にも人気のアイドルグループがいるの?」
北「あなた今踊りたいの?」
などなど。それぞれのちぐはぐなやりとりがかなり面白く、会場はかなり爆笑していました。

3部:「南」がテキストに書いたことを「北」が実行する。
もちろん「南」の書いたテキストは「北」には見えません。「南」が書いた文章はスクリーンに投影され会場の観客のみが読めます。
これもまた成立するところとそうでないところがあります。
南(テキスト):「緑色のものをつかんでください」
北:植木を揺らして葉っぱを落とす。
南(テキスト):「洗濯物を干したらどう?」
北:ひもをはさみで切る。
など。

4部:「北」がテキストに書いたことを「南」が実行する。
「北」が書いたテキストは俳優にはみえない位置に置かれたスクリーンに投影されます。
私がたまたま見た回が偶然そうだったのだと思うのですが、これが驚異のシンクロ率でした。
北(テキスト):「音楽会を開いたら?」
南:ドラム缶の中に本を次々投げ入れて大きな音がする。
北の驚いたようすに会場は笑いに包まれていました。
北(テキスト):「(俳優)2人の関係性を見せてください」
南:俳優の1人がもう一人の俳優を棒でたたく
など。

普通だったら絶対にコミュニケーションが取れない者同士が、何かを相手に伝えようとし、また相手が何を伝えようとしているのかを理解しようとし、結果的にちぐはぐなのですが、そもそもコミュニケーションって何?というのを問いかけられる作品でした。
作品全体的に、やりとりが笑えるものが多かったです。

もう一台のカメラはどこに置かれているのか(本当に北朝鮮なのか)、テレパシーでコミュニケーションは可能なのか、リアルとフィクションのはざまでユーモラスたっぷりに南北のコミュニケーションを作品化するキム・ファンはやっぱり今後も要・要・要注目だなと思いました!

《参考リンク》
「キム・ファン『皆のためのピザ』に続く新作を今春発表!」(2013/03/05)
「Festival Bo:mについて」(2012/04/26)