2018/08/12

制作者の職能じゃなく、まずは君の志向性から聞かせろ、話はそれからだ。

正確にいつからだったかは覚えてないけど、2年以上前から、レクチャーとかの機会をいただくとよく話していた「制作者の志向性」というトピックがある。ただそれをちゃんと文章にしたことがなかったことに、いまさら気づいたので書く。

「自分が制作に向いているか分からない」とか「やりたくて入ったはずなんだけど、思った仕事となんか違う気がする」とか「将来舞台芸術業界で働きたいけど、制作になりたいのか分からない」という相談を、リアルでも、オンラインでもめちゃくちゃ受ける。

こればっかりは自分自身で自分のことを掘り下げる以外に答えがない。
だけどおそらく私にこういうことを聞いてくるってことは、その「掘り下げ方」が分からないんだと思う。私は壁打ちのための「壁」になることはできるけど、打ち返されたボールに向き合い続けるのは、あくまで「その人自身」なのだ。
数往復で答えを見つけられる人もいるし、何百回壁打ちしても見つけられない人もいる。



制作という仕事に向き合って「この仕事でいいのか…」と悩んでいる人に陥りがちなパターンがある。

そのひとつめが、「どこで働くか」問題だ。
「公立劇場」で働くことが向いてないんじゃないか…、「アートNPO」で働く方がいいんじゃないか…ということで悩むパターン。公立劇場でも、劇場によってその仕事内容も、労働環境も全く違うし、それはすべての組織で言えることなので、大きなくくりでの「働く場所」のことを考えていてもしょうがない。
ただ、「マネジメント層」や「経営者」と気が合わないという場合には、転職することをお勧めする。「社風」は上層部の意識が色濃く反映されるものなので、そもそも「合わない」のであれば、潔く自分に合う環境に移動したほうが精神衛生上もずっといい。シロクマがジャングルでは生きられないように、住む世界が違ったと思えばいい。


そして制作の仕事で悩んでいる人に陥りがちなパターンその2が「今やっている仕事が合わない」問題だ。制作者の仕事は幅広い。むちゃくちゃ広い。気を抜くと、なんでもかんでも制作の仕事に入ってくる。だから同じ制作者でも、やっている仕事内容は全然違っていたりする。なんで同じ肩書なのか不思議なくらいに。
「今やっている仕事が合わない気がする」という人に「じゃあ何だったら合うと思う?」と聞くと、たいてい答えがない。とりあえず「今やっていることが合わない」ということで立ち止まってしまっている。

そう、実は答えはそこに埋まっている。まずは君の志向性について聞かせてもらおうじゃないかぁぁぁぁああああい!

さて、志向性とは何ぞや。

私がおおざっぱに制作者の志向性を分類したら、6パターンになった。

そして

  • 一人の人間が、複数の志向性の組み合わせを持っている。
  • 同じ人でも、キャリアの重ね方によって、徐々に志向性が別のものに移行していく場合も多々ある。

ということも重要なポイント

この「6つの志向性」はあくまで私の分類なので、いろんな分類があってもいいと思う。


<クリエーション志向>
生息場所:劇場、実演団体、制作会社、事業型NPOなど

  • アーティストと作品を創ることに喜びを感じる
  • 稽古場大好き
  • クリエーションの現場から離れると、とたんにモチベーションを失う
  • 重要な価値観:作品そのもの、アーティスト自身


<コミュニティ志向>
生息場所:地域に根差した活動を行う劇場、実演団体、制作会社、NPOなど
  • 地域の人達と舞台芸術を通じてつながることに喜びを感じる
  • 特定のコミュニティと強いつながりを持つ
  • 舞台芸術以外の活動を行うことも苦にならない
  • 重要な価値観:コミュニティ、 地域の人々

<プラットフォーム志向>
生息場所:劇場、アートスペース、フェスティバルなど
  • 舞台芸術を媒介とした特定の「場」を活性化していくことに喜びを感じる
  • 不特定対数の他者にオープンである
  • 関わる人数、ステークホルダーの多さが苦にならない
  • 重要な価値観:ある特定の「場」


<サポート志向>
生息場所:助成財団、中間支援組織、稽古場運営会社、制作者をサポートするサービ
スを提供する会社など
  • 舞台芸術の創作・上演の最前線にいる人を支援することに喜びを感じる
  • 環境を整備していく意識が高い
  • 業界の関係者に広く開かれている
  • 重要な価値観:舞台芸術の場で働いている人


<ネットワーク志向>
生息場所:劇場、制作会社、中間支援組織、フェスティバルなど
  • 点在している組織や人を繋ぐことに喜びを感じる
  • 点と点を繋ぐことで新しい価値を創る
  • 視野が国内外問わず、広い
  • 重要な価値感:ネットワーク


<アントレプレナー志向>
  • 既存の組織やシステムをより良く変えていくことに喜びを感じる
  • 無いものは自分で新しく創ることも苦にならない
  • 他業界とも積極的につながっていく意識が高い
  • 重要な価値感:変革、改善

たとえば、一つの組織のなかに「クリエーション志向」と「コミュニティ志向」と「サポート志向」が強い人がいた場合。お互いにこの志向性を理解していれば、「地域の小学生向けのワークショップ」の企画が上からふってきたときに、誰が担当するのがよいのかよりわかりやすいと思うし、ミスマッチが起こりにくいと思う。

また、全フラグを1点集中したような、超絶「クリエーション志向」だった人が、ある組織の中でその仕事っぷりを評価されて昇進したとする。そして新しい立場では、スタッフを統括することが求められた場合、これは結構キツイ。本人も周囲もキツイ。それまでその人のモチベーションを支えていたクリエーション志向は、スタッフを統括する立場ではほとんど必要とされず、かわりに求められるのはサポート志向やプラットフォーム志向だったりする。その人の「志向性」を考えずに、ヒエラルキーの中で上に上がっていくのを良しとする組織の場合、昇進とともにミスマッチで退職というのは、いろんな現場でよく見ている事実だ。

制作者の職能じゃなく、まずは君の志向性から聞かせろ、話はそれからだ。