2013/03/28

うちは関係ないから…じゃないよ!超重要「共同製作」の考え方

前回「製作」と「制作」の違いについてブログを書いたので、今回は「共同製作」について書きたいと思います。

最近「共同製作」クレジットをよく見かけるようになってきました。
Festival/TokyoやKYOTO EXPERIMENTなど、国際的フェスティバルで上演される作品はとくにこの「共同製作」が入っている作品が多いですよね。

費用やクリエーションの責任を負っているのが「製作」だよ、ということは前回書きましたが、「共同製作」は文字通り2つ以上の団体が共同でその費用・責任を負担するということです。
ある劇団が新作を作る際に、共同製作としてフェスティバルや劇場が入るのがおそらく一番多いパターンですね。あとは劇団同士でコラボレーションする場合に、劇団2つが並んだ共同製作もたまに目にします。

で、この「共同製作」のクレジットの入れ方も実は2パターンあるって気付いていましたか?
劇団AとフェスティバルBが共同製作で新作をつくったときのクレジット

<パターン1>
製作:劇団A
共同製作:フェスティバルB

<パターン2>
共同製作:劇団A、フェスティバルB

パターン1か2か、それは当事者同士での話し合いによって決められるものなので、こうなった場合はこっちとか、明確には決められていません。
パターン1の場合だと、劇団AのほうがフェスティバルBより費用を多く負担しているようにも思えますが、実情はそういうわけでもなく、実はフェスティバルBのほうが費用は多く出しているケースもあります。(共同製作だからといって、費用負担が50:50になるというわけではありません。この割合は当事者同士の話し合いで決められます。)

パターン1にするか、2にするか、絶対的な基準はないですが、判断材料は2つあります。
その1、助成金を他に取得している場合。
劇団A名義で助成金を取得している場合、劇団が製作なんだということをより強調するためにパターン1にすることもあります。
その2、その作品が再演される確率が高い場合。
前回、「製作」クレジットは、その作品の責任を負うと同時に、権利を主張する意味もあると書きました。再演の話がきたときに、パターン1の場合は劇団Aの裁量で再演するかどうか(また上演料をいくらにするかとかも)決められます。パターン2の場合、原則上は再演の話が来たら劇団AはフェスティバルBに再演について相談をする必要があります。クレジット上は責任と権利が同等になっているので。

ちなみに、私が今まで仕事をしてきた中で、一番共同製作クレジットが長かったのは、ぶっちぎりでF/T09秋のロメオ・カステルッチ『アリギエーリ・ダンテ作『神曲』から自由に着想した三部作-地獄篇、天国篇、煉獄篇』です。

このクレジットを見てみますと、「共同製作」として・・・

ソチエタス・ラファエロ・サンツィオ
アヴィニョン演劇祭
ル・マイヨン・ストラスブール劇場
ポワチエ・オーディトリアム劇場
ディジョン・オペラ座
バービカンバイト09(ロンドン・スピル・フェスティバル2009)
デ・シングル
クンステン・フェスティバル・デザール
ド・ムント/ラ・モネ国立劇場
アテネ・フェスティバル
UCLAライブ/ロサンゼルス
ラ・バティ/ジュネーヴ・フェスティバル
エミリア=ロマーニャ州演劇財団
ナム・ジュン・パイク・アート・センター
欧州文化首都09年:ビリニュス、シレノス・ビリニュス国際演劇祭
カンカルイェヴ・ドン
フェスティバル/トーキョー

はい、17団体が名を連ねております。すごいです。
ちなみに一番上の「ソチエタス・ラファエロ・サンツィオ」というのがロメオ・カステルッチのカンパニーで、それ以降は世界中のフェスティバル、劇場になっています。
ちなみにこのクレジットは<パターン2>の表記方法になっていますが、ここにラインナップされている世界各地のフェスティバル・劇場をツアーしたあと、世界最終公演がフェスティバル/トーキョーでした。再演するつもりがなかったので、パターン2にしたともいえるんじゃないでしょうか。

さて、共同製作のメリットとしては

1.費用
当然、1団体で負担するよりも費用負担は軽くなります。たとえば、作品の製作費だけで1000万円かかる新作を作りたいと考えていても1劇団ですべて負担するのはかなり大変です。しかし共同製作にフェスティバルが入って500万円負担してもらえれば、助成金等があれば不可能ではなくなります。また、3団体で共同製作すれば、仮に費用を均等に等分したとしても1団体333万円分の負担で、実質1000万円の作品が製作できることになります。

2.作品のツアーの計画が立ちやすい
作品の製作にお金だけ出して、できあがった作品を上演しないフェスティバルや劇場なんて存在しません。共同製作に入った以上は、そのフェスティバル・劇場で上演するというのは双方の約束事になります。(ツアーのための費用や公演費はまた別途そのフェスティバル・劇場が負担します。作品の製作費とは別の話なので)カンパニーにとっては、作品を作る前にツアー計画が立てられるので年間の予定が立ちやすくなります。
また、フェスティバル、劇場にとっては売れっ子アーティストの作品を確実にブッキングできるというメリットがあります。

3.箔がつく
作品がまだできていないのに、それに対して当事者以外が共同製作に入って投資をするというのは、そのアーティスト・劇団の作る作品が信頼されているという証にもなります。
また、国際的な共同製作の場合は、その共同製作に入れるくらいしっかりとしたフェスティバル・劇場だというのを対外的にアピールできることにもなります。

こんな感じで、共同製作は劇団・フェスティバル・劇場にとってメリットだらけのような気がしますが、国内アーティストの作品で2つ以上の国内のフェスティバル・劇場が共同製作に入っているパターンってあまり見かけない気がしませんか?
やっぱりみんな自分のところで「新作・世界初演」をやりたがるんでしょうね。
でも自分のところが世界初演でなくても、ツアーの過程で作品も成長するし、共同製作のシステムがアーティストを育てることにもつながると思うんですけどね。

今後国内でも、もっと共同製作が浸透していくといいなと思います。
劇団が助成金に頼らなくてもいい方法はそこだと思っているんですけどね。
新作作るぞ!→助成金どうしよう・・・じゃなくって、
新作作るぞ!→共同製作相手探すか!に転換していくことが必要だと思ってます。
そのうえで助成金がとれたら(但し、赤字補てん系じゃないものに限る)ラッキー★くらいで。

それにはまず、制作者が共同製作のことを正しく認識することが第一歩かなと思って今回の記事にしてみました。
新作ばっかり作ってたら、アーティストも大変だけど制作者も疲れるよ!

<制作知識シリーズ>
「ちゃんと使い分けてる?舞台芸術のクレジットにおける「制作」と「製作」の違い。」(2013/03/25)